相続税対策は富裕層が行うもの、と思っていませんか。実は、相続の開始後に「隠れ資産」が発覚したことにより、相続税の納税が必要となるケースは案外少なくありません。

預貯金通帳や不動産といった財産は、遺されたご家族が相続財産として認識しやすく、相続税計算時に把握できているものの、子どもには伝えていなかった意外な財産が高価な価値を持っているケースがあるのです。

そこで、本記事では富裕層以外の方にこそ知ってほしい、「隠れ資産」の対策と注意点について詳しく解説します。

「隠れ資産」になりやすい意外な相続財産とは

相続が開始されると、被相続人の相続財産を相続人が調べる必要があります。預貯金口座や不動産などは一般的な相続財産として知られているため、見落とされにくいものですが、実は「隠れ資産」の存在が発覚することがあります。

相続税申告時に漏れてしまうと、延滞税や過少申告加算税などのペナルティが課せられるおそれがあるため、十分に注意する必要があります。

そこで、本記事では富裕層以外でも注意が必要な「隠れ資産」について詳しく解説します。

相続税について詳しく知りたい方はこちらのコラムもご一読ください。

名義預金

被相続人が生前に配偶者や子、孫などの名義で口座を作成していた場合は「名義預金」として相続税の課税対象となる可能性があります。名義自体は被相続人名ではなくても、預金の原資が被相続人の場合は税務署が名義預金と判断し、相続財産として申告する必要があります。

贈与契約がなく、相続人が知らないうちに被相続人が口座を作りお金を貯めていてくれることは多く隠れ資産になりやすいため注意が必要です。

貴金属類

金やプラチナなどの貴金属は、相続人が知らないうちに購入されており、長きにわたって保管されていることがあります。特に金は税務署が購入者を調査しており、200万を超える金地金や金貨の売買が行われていた場合、支払調書が税務署へ送られているため相続税申告時に漏れがあると税務署が調査を進める可能性があります。

自宅だけではなく貸金庫に保管されているケースもあるため、漏れなく探す必要があります。

高級ブランドのバッグや時計

上記と同様に、高級ブランドのバッグや時計も資産価値が高く、相続財産として申告する必要があります。

相続税申告時に家財については価値が5万円以下であれば家財道具一式として計上できますが、エルメス・バーキンやロレックスなどの高級ブランドの品々を相続人がお持ちだった場合は、申告前に税理士へ相談することがおすすめです。

デジタル遺産に該当するもの

近年高齢者層にもスマホやタブレットといったデバイスが普及していることから、デバイスの中にデジタル遺産が眠っており隠れ資産となるおそれがあります。

スマートフォンアプリなどに蓄積された電子マネーやポイントも、換金性があるものは相続財産となり得ます。近年人気が高い暗号資産も、生前にご家族に伝えずに保有している恐れもあるため、ご逝去後はデバイス内も確認することが望ましいでしょう。

高級なお酒や著作権など

収集していた高級なお酒や骨董品なども、市場価値がある場合は相続財産となります。また、書籍や音楽などの著作権も、将来にわたる収益を生む可能性があるため、適切な評価が必要です。

隠れ資産が引き起こすトラブルとは

我が家は富裕層ではないから大丈夫、と思っていても意外な名義預金やデジタル遺産が追加されることで、相続税の基礎控除を超えて課税対象となる可能性があります。ここで改めて基礎控除について振り返りましょう。

・相続税の基礎控除…3,000万円+(600万円×法定相続人数)

その他にもさまざまな種類の控除や特例が用意されていますが、適用がない場合基礎控除を超えている部分は相続税の課税対象となります。

では、隠れ資産が相続時に引き起こすトラブルにはどのような問題が考えられるでしょうか。

見つかりにくく遺産分割協議が遅れる

隠れ資産はその名の通り「存在を見つけにくい」財産です。そのため、遺産分割協議の段階でその存在が判明せず、後から発覚して相続人間での紛争に発展することがあります。

また、他の相続人に隠していたと思われてしまうと、遺産をめぐるトラブルになるおそれもあります。

相続税の申告時の計算が難しい

隠れ資産は、相続税申告時にどのように価値を算定するのか難しい場合があります。特に、暗号資産や貴金属やブランド品などは専門的な知識が必要となり、適切な評価ができないと相続税の過少申告につながるおそれもあります。

相続手続きが複雑

隠れ資産は相続人が相続する際に行う必要がある事務手続きが複雑な場合もあります。預貯金口座や不動産のようにスムーズな手続きができず、名義変更や解約に時間がかかる可能性もあります。

また、相続税申告後に隠れ資産が見つかった場合、税務署への修正申告などの追加の手続きが必要となり、相続手続きに翻弄される場合もあるのです。

今から始めるべき「隠れ資産」の相続税対策とは

デバイスの普及で潜在的に隠れ資産が生まれやすくなっていたり、名義預金が長年放置されていたりと、富裕層以外の方も隠れ資産には生前から十分に注意する必要があります。では、今から始めるべき隠れ資産の相続税対策とはどのようなものでしょうか。

遺言書の活用

遺言書を作成する際には「財産目録」を作成するため、ご自身の手で財産を書き残すことができます。全ての財産を明記することで、隠れ資産の存在を相続人に伝えることが可能です。

特に、デバイス上で管理していたり、生前には家族に伝えていない資産があったりする場合はその存在場所やアクセス方法なども具体的に記載すると良いでしょう。

放置されている財産の整理

家族に伝えていない名義預金など、放置されている財産がある場合は生前に整理しておくことが大切です。あわせて不要なものは処分したり集約しておいたりすることで、相続人の負担は軽減できます。

名義預金の解消について検討されている場合は、贈与契約も検討できるため、あらかじめ家族とともに税理士や生前の相続税対策に強い相続センターへ相談されることもおすすめです。

生命保険の加入

生命保険は相続税対策に広く利用されている方法です。死後に支払われる死亡保険金は祖「受取人固有の財産」となり、原則として相続財産とはなりません。

みなし相続財産として相続税の課税対象にはなりますが、非課税枠も設けられています。

・死亡保険金の非課税枠…500万円×法定相続人数

また、生命保険金は相続税の納税資金にも利用できるため、納税に備える効果もあります。

生前贈与

生前贈与を計画的に行うことで、相続財産の総額を減らし相続税の負担を軽減することも可能です。年間110万円までの基礎控除を活用した暦年贈与や、相続時精算課税制度の利用などが考えられます。

生前贈与の一環として、名義預金とみなされる可能性のある預貯金は贈与し、受贈者自身が管理する形にすることで、名義預金問題を解消することもできます。贈与契約書を作成するなど、贈与の事実を明確にしておくことが大切です。

隠れ資産の不安は専門家に相談しよう

隠れ資産の特定や評価、相続税対策は、専門的な知識を要することがあります。相続税に詳しい税理士や弁護士に相談することで、適切なアドバイスを受け、スムーズな相続手続きを進めることができます。

まとめ

本記事では富裕層以外の方にも注意が必要な「隠れ資産」について、対策と注意点を詳しく解説しました。

特に名義預金は多くの方が保有しており、相続開始後には隠れたままにならないように注意する必要があります。複雑な相続手続きや相続税のペナルティを避けるためにも、生前から家族揃って対策を進めていくこともおすすめです。

さいたま幸せ相続相談センターでは、生前対策から相続開始後のご相談まで広く対応しています。まずはお気軽に無料相談をご活用ください。

執筆:岩田いく実
監修:税理士法人ブライト相続 戸﨑貴之 税理士