こんにちは。相続コンサルタントの馬渕です。
遺言書を作成する際に「遺言執行者」という役割を指定することができるのをご存じですか?
遺言執行者とは、遺言者の遺言の内容を、死後に実現するための手続きを単独で行う権限と義務を持つ人です。遺言書があっても、具体的にそれを実行する人がいなければ遺言者のご意思を引き継ぐことが困難である場合もあります。遺言執行者とは、遺言者のお気持ちを具現化するための役割を担う大切な存在であるといえます。
では、もしご自身が遺言執行者に遺言書で指定された場合、何をしたらいいのでしょうか?
当社では、遺言執行者に指定されたお客様のご相談やサポート等もさせて頂いておりますし、遺言書を作成する際に遺言執行者を指定するか否かについてもお客様へアドバイスをさせて頂いておりますので、それらの経験を踏まえ解説してみたいと思います。

遺言執行者とは?
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(⺠1012条1項)
と民法に定められています。主な権限には、①相続財産の管理 ②遺言執行の妨害の排除などがあります。いずれも、特に①については迅速に相続財産を調査し、遺言執行者の責任にて管理を行っていくことが求められます。
遺言書について詳しく知りたい方はこちらのコラムもご一読ください。
遺言執行者には、誰でもなれるの?
原則として、未成年者と破産者を除く誰でも遺言執行者になることができます。遺言者の子供や兄弟といった相続人や受遺者(遺贈によって財産を受け取る人)も遺言執行者になることができますし、信頼できる友人・知人・親戚なども可能です。また、遺言執行者には専門的な法律の知識なども求められるため、司法書士、弁護士や行政書士といった士業や当センターのような相続関連の一般社団法人や司法書士法人、信託銀行等の法人も遺言執行者になることが可能です。
それほど複雑な内容ではない遺言書の内容であれば、身近な家族である相続人が遺言執行者になるケースも見受けられます。但し、相続人が遺言執行者となる場合には、自身が利害関係者となるため注意が必要です。複雑な遺産分割が必要な場合には、第三者である専門家が遺言執行者となる方が、感情面でもスムーズに進むこともありえます。
実際に戸籍を調査し相続人を確定させたり、金融機関等とのやりとりや不動産の登記手続きなど高度な知識と経験が求められます。一般の方が手続きを行うには労力も多く、ご負担が大きいため、実務では相続人よりも士業等の専門家や法人等が遺言執行者となるケースが多いように感じます。
以下のような場合には、詳しい専門家を遺言執行者に選定するメリットがあると言えます。
- 相続財産が複雑で多岐にわたる場合(不動産、株式、複数の金融機関口座があるなどの場合)
- 相続人の間に争いが生じる可能性がある場合
- 相続人に高齢者や遠方に住む人がいて、手続きが困難な場合
- 遺言の内容に「認知」や「相続人の廃除」といった家庭裁判所での手続きが必要な事項が含まれる場合(これらは遺言執行者のみが行える手続きとなります)
遺言執行者を専門家へ依頼するデメリットとしては、遺言執行者への報酬が発生する点と言えます。また、相続人の方や受遺者の方と遺言執行者との相性やコミュニケーションが円滑に図れるかという点もご相続を円滑に進められるかにおいて重要な点です。せっかく専門家に遺言執行を依頼したのにも関わらず、コミュニケーションに齟齬があり余計なストレスや不安なお気持ちが残ってしまう、、、なんてことは避けたいところです。
遺言書の作成の際には、遺言執行者を選定するメリット・デメリットを理解し、スムーズにご本人の遺言内容が間違いなく実行できるよう、誰を遺言執行者に指定するかも含めて慎重に検討を頂くことをおすすめします。
遺言執行者はどのように指定するの?
遺言執行者を指定する方法は、主に以下の3つです。
遺言書で指定する
遺言者が遺言書の中で「〇〇を遺言執行者に指定する」と明記する方法が最も一般的です。突然遺言執行者に指定されると、指定された方も驚いてしまい場合によっては辞退される可能性もあるため、事前に、その人が遺言執行者となる意思があるか確認しておくことが望ましいです。事前に職務の内容についても十分理解しているかについても丁寧に確認し合意を得ておくことが重要です。
遺言書で指定を委託する
遺言者が遺言書の中で、第三者(司法書士などの専門家)に遺言執行者の選任を委託することも可能です。遺言書作成後に指定した遺言執行者が自分より先に亡くなってしまうと、家庭裁判所に選任を申し立てる手間が発生します。そこで、事前に委託者を指定しておけば、その委託者が改めて遺言執行者を選任でき、申立(③で紹介します)の手間が省けます。
家庭裁判所に選任を申し立てる
遺言書で遺言執行者が指定されていない場合、または指定された人が辞退した場合や亡くなった場合などには、相続人などの利害関係者が家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることができます。遺言執行者の選任申立は、相続人、受遺者、遺言者の債権者など利害関係を有する者が行うことができます。申立人は、遺言書の写しや、戸籍や利害関係を証明する資料などを準備し、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所にて行います。申立を行ってから審判、確定まで約1~2ヶ月程度も要する場合もあります。
家庭裁判所へ遺言執行者の選任を申立する場合、上記の通り余計な手間や時間がかかってしまうだけではなく、遺言執行自体に遅れが生じたり、財産管理が滞る可能性があるため、家庭裁判所への申立はなるべく避けた方がベターと言えるでしょう。
遺言執行者になったらやるべきこと
相続人の調査・相続財産調査
遺言者の出生から死亡までの戸籍を収集し、法定相続人が誰であるかを確定します。
家族も知らない相続人がいる可能性もあるので、慎重に調査を行う必要があります。
遺言書に記載されている財産だけでなく、相続の対象となる財産や債務などのマイナス財産を調査する必要があります。金融機関への残高の照会等を行ったり、不動産の権利を調査したりします。また、口座情報をあらかじめ把握していない場合や最近では通帳のないWEB口座やネット証券なども多く、それらの調査は、大変な労力を必要とします。その他、自動車や貴金属、アート作品、ゴルフ会員権などの財産や債務も漏れのないように調査します。
遺言執行者の就職の通知
遺言執行者に就任した場合、遅滞なく相続人や受遺者(遺贈を受ける人)に対し、自身が遺言執行者となった旨を記載した通知書を送付する必要があります。
2019年7月1日の民法改正により、遺⾔執⾏者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺⾔の内容を相続⼈に通知しなければならない(⺠1007条2項)と定められ、就職通知と遺言の内容を相続人に通知することが義務化されました。その際、必ずしも遺言の写しを送付する必要はありませんが、相続人への遺言の内容の開示は必須となりますので、注意が必要です。また、こちらの就職の通知が遅れたことで、相続人に不利益が被ることがあった場合、損害賠償責任を問われる可能性もありますので、注意が必要です。
財産目録の作成・交付
調査を行った全ての財産(マイナス財産も含む)を一覧にした「財産目録」を作成し、全ての相続人に交付します。遺言執行者の管理の対象となる財産を確定し、遺言執行義務の範囲を確定することが目的となります。財産内容の透明性が保たれ、後のトラブルを防ぐことができます。
遺言書の内容が、相続人の遺留分を侵害している場合などは非常にセンシティブな内容となるため、財産目録の作成については細心の注意を払う必要があります。
執行‐遺言内容の実現
ここまでの手続きを経て財産が確定しましたら、いよいよ遺言書の内容の実現に向けて具体的に執行に着手します。預貯金の名義変更や解約手続き、不動産の相続登記手続きなどが中心ですが、複数の財産がある場合には手続きの執行自体が大変です。不動産の相続登記手続きなど、法務局への申請が必要なものや、証券会社・金融機関とのやり取りを要する手続きでは、専門的な知識と慎重な対応が求められます。
必要に応じて司法書士や税理士などの専門家と連携を取りながら、遺言に記された内容を正確かつ円滑に実現していくことをおすすめします。
完了報告
手続きがすべて完了したら、手続きの完了報告と受任終了の通知をし、完了となります。
まとめ
ご自身が遺言執行者に指定された場合には、上記のとおり、さまざまな手続きを実行していく必要があります。複雑な手続きも多いため、手続きに悩まれる方やどこから何を始めたらいいか頭を悩ます方もいらっしゃるかと思います。
実は民法改正前は、特別な事情がない限り、遺言執行は遺言執行者自身で全て行わなければならないとされていました。しかし、上記でご紹介させて頂いた通り遺言執行業務は複雑化しており、専門知識が必要となるケースも多いため、法改正により、遺言執行者の復任が可能となり、より柔軟かつ効率的な遺言執行も可能となりました。
民法第1016条(遺言執行者の復任権)
・遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
・前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
このように、遺言執行ひとつとっても、様々な法的な定めがあり大変複雑化しております。
もしご自身が遺言執行者に指定されてお困りになった場合は、まずは専門家の方へご相談いただくことをお勧めします。遺言執行者、適切な対応がされなかった場合に、相続人や受遺者から損害賠償の請求をされてしまうといったリスクも内在しています。
また遺言書を作成する際にも、遺言執行者を指定するか否かは重要なポイントとなります。ご自身が遺言書を書かれる場合には、どのような選択をすることが、将来相続をされた方たちにとって負担が軽減できるか、トラブルなくご相続できるか、想像力を働かせながら一緒に検討ができる専門家の方に是非ご相談ください。
当センターの遺言書作成サポートの詳細はこちらをご覧ください。
当センターでは、遺言作成のサポートだけでなく、遺言執行についてのご相談など、相続にまつわるあらゆるご相談へ対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
監修:おがわ司法書士事務所 小川直孝 司法書士