近年、日本のアニメや漫画、ゲームといったサブカルチャーへの熱狂的な支持は、国内外を問わず大きな広がりを見せています。こうした推し活の市場規模は約8,000億円規模とも言われ、実際、2023年度はサブカルに関する調査対象16分野中14分野で市場が前年成長し、同人誌市場は前年度比37.9%増という顕著な伸びを記録しました。

このようにフィギュアや限定グッズなどは発売されるたびに話題となり、予約開始から瞬く間に完売することも珍しくありません。

特に海外においては「Weeb(ウィーブ)」と呼ばれるファン層が存在し、日本のポップカルチャーを好む人々がコミュニティを形成し、趣味を深めています。

「Weeb」という言葉自体はもともと揶揄(やゆ)的に使われることもありましたが、現在では「日本のアニメ・漫画などが大好きな人」というポジティブな意味合いで使われるケースが増えました。熱量の高いファンコミュニティが形作られることで、アニメやゲーム関連のコレクションは、単なる娯楽を超えた「資産的価値」を獲得しつつあります。

そこで注目したいのが、これまで「趣味の品」として扱われてきたフィギュアや限定グッズが、相続可能な財産として評価される可能性です。たとえば家や土地、株や預貯金などの相続財産に加えて、フィギュアや希少グッズのような「趣味資産」もまた、家族にとっては価値ある相続対象になり得ます。さらに、この「推し活」の盛り上がりが新たな経済的価値を生み、次世代の経済循環をもたらすことがあるのです。

そこで今回は、フィギュアやレアグッズといった「Weeb資産」が相続財産としてどのような魅力を持ち、どのように次世代へ継承していけるのかを探ります。また、趣味資産特有の価値評価や、相続手続きを行う上で気をつけるべきポイントにも言及し、具体的なトラブル事例やその回避策についてもご紹介します。

広がりを見せる推し活市場と資産価値

推し活市場の拡大

推し活とは、自分が応援するアイドルやアーティスト、作品やキャラクターなどに対して、時間やお金を費やして支援・応援する行為全般を指します。SNSの普及も相まって、好きな作品やキャラクターを盛り上げるためにファン同士で盛んに情報交換をする「推し活」コミュニティが形成されています。コンサートやイベント、グッズの購入など、推し活の形は多様であり、ファン同士が作品を通じて強い結びつきを感じ合うことも大きな魅力です。

とりわけ日本のアニメ・漫画・ゲーム関連の市場規模は年々拡大しており、国内だけでなく海外にも巨大なファンベースが存在します。その結果、限定商品の抽選会や受注生産など、販売手法にもさまざまな工夫が凝らされるようになりました。発売当初は定価数千円であったフィギュアが数年後には数倍以上に高騰する、サイン入りやイベント限定品が新品価格の数十倍で取引されるなど、コレクター市場の過熱具合は目を見張るものがあります。

Weeb(ウィーブ)に注目の理由

「Weeb(ウィーブ)」という言葉は、もとは海外で日本のオタク文化に過度に熱狂する人々を揶揄するスラングとして使われた時期がありました。しかし近年では、自己のアイデンティティを示す言葉として、海外のアニメファンやマンガファンが自ら「自分はWeebだ」と名乗ることも増えています。日本のポップカルチャーが好きで、その文化を積極的に取り入れ、楽しんでいる人という意味合いでポジティブに使われるケースが増えたのです。

これにより、海外にも熱心なコレクターやコミュニティが形成され、絶版になった商品や限定的に販売されたグッズが高値で取引されることも少なくありません。日本国内でも「オタク」が市民権を得てきたように、海外でも「Weeb」であることが一種のステータスになりつつあります。その背景には、世界中の人がオンラインでつながり、作品に関する情報や価値観を共有し合える時代になったことが大きく影響していると言えるでしょう。

コレクター市場における希少アイテムの高騰事例

オタクやWeebが牽引する推し活経済の中でも、コレクター市場における希少グッズの価値高騰した事例を紹介します。

・トレーディングカードの高騰

代表例がポケモンカードや遊戯王カードなどのトレカです。中でも極めて入手困難なカードは、美術品さながらの価格で取引されています。例えば、1990年代にごく少数配布された幻の「ピカチュウ イラストレーター」カードは、米国オークションで約90万ドルもの落札額を記録し、ポケモンカード史上最高額となりました 。国内でも遊戯王OCGの大会優勝賞品だった「ステンレス製カオス・ソルジャー」カード(世界に1枚)は、市場にほとんど出回らない幻のカードながら過去に9億円超の価格が提示されたことがあります。

このようなトレカ高騰はコレクター熱と投機的需要が相まった現象で、人気カードは「資産性を持つコレクション」として認識されているからです。これは日本発のポップカルチャーグッズが世界中のコレクターを魅了し、市場が国際的に拡大していることを示しています。こうしたレアアイテムの高騰事例は、「推し活」が単なる消費に留まらず資産形成や投資の対象にもなり得る側面を浮き彫りにしているのです。

Weebがもたらす経済効果

海外のWeeb層がもたらす経済効果は多岐にわたります。まず、観光面では、彼らが聖地巡礼と呼ばれる作品の舞台となった場所を訪れることで、自治体や地元企業が観光収益を得ることができます。

観光庁の訪日外国人消費動向調査 2023年年次報告書によると、訪日外国人の約7.5%(推計186万人)がアニメや映画の舞台となった聖地を訪問しています。これに付随して宿泊・飲食・交通などの需要が高まり、地域経済が活性化します。さらに、コラボイベントや限定グッズ販売なども盛んに行われることで、新たな雇用機会や事業拡大の契機となることが期待されます。
また、Weeb層がSNSなどで自身の旅行体験やコレクションを発信すれば、それが口コミ効果を生み、さらなる訪日需要の創出につながるのです。グローバルに情報が共有される現代では、人気に火がついた作品が国境を越えて瞬時に拡散され、爆発的な経済波及を生む可能性があります。さらに、日本企業が海外向けに翻訳やローカライズを積極的に行うことで、海外のファンを取り込む機会も拡大します。商品の輸出増やコラボカフェなどの展開を通じ、新規産業やサービスも次々と誕生し、日本のソフトパワーが強化されるという好循環を生み出しているのです。
このように、日本のポップカルチャーを愛するファンの存在が新たなビジネスチャンスを次々と生み出す構造こそが、Weebによる経済効果の最大の特徴と言えるでしょう。

※参照:観光庁 訪日外国人の消費動向調査2023年年次報告書

相続資産としてのWeeb資産の魅力

新しい相続資産の選択肢

相続と言えば、家や土地、株式や預貯金といった資産が真っ先に思い浮かぶかもしれません。しかし、フィギュアやレアグッズなどの「Weeb資産」はそうした伝統的資産にはない特性を持っており、今後は相続の選択肢として無視できない存在になる可能性があります。

具体的には、限定品やレア品は希少性が高く、作品人気が継続または上昇した場合に価値がさらに高騰するケースが期待されます。金融資産はリスクヘッジとしてさまざまな商品を組み合わせたり、定期的に市場動向をチェックする必要がありますが、趣味資産はそのファンコミュニティの熱量やコレクター同士の需要によって価値が大きく上下するため、ある意味では「宝探し」のような魅力もあるのです。

想いの継承と財産的価値の両立

趣味資産には、単純な金銭価値だけでは測れない思い出や情熱が詰まっています。フィギュアを集めるときのワクワク感、イベントで手に入れた限定グッズにまつわる思い出、推しキャラへの愛着などは、持ち主の人生を彩る大切なストーリーとも言えます。

相続の場面では、故人の思いを受け継ぐことは大きなテーマです。たとえば「亡き父はガンダムのフィギュアをたくさん集めていた」というような話があったときに、そのコレクション一つひとつに隠された思い出を家族が共有することで、遺産分割や相続手続き以上に「家族の絆」を深めるきっかけになるかもしれません。単なる物や金銭の受け渡しではなく、「趣味と情熱」を次世代へ引き継ぐという意味で、Weeb資産は感情的な価値も大いに持ち合わせているのです。

世界規模の需要

海外に目を向けると、Weeb層によるコレクション熱はさらに高まっていると言われます。絶版・限定生産だった商品を海外のファンが探し求めることで、市場価値が跳ね上がるという例も珍しくありません。

これからの時代はインターネットを活用して、国境を越えた取引や情報交換がますます進むでしょう。海外の大型オークションサイトに出品したり、SNSでコレクター同士のコミュニティに参加したりすることで、思わぬ高値で買い手が見つかる可能性があります。このグローバルな観点からも、Weeb市場を将来的な相続財産として検討することも大きな魅力があるといえます。

趣味資産相続におけるトラブルと回避策

相続トラブルの典型例

相続というと、どうしても財産分割などで家族間のトラブルが発生しやすいものです。特に趣味資産の場合、下記のようなトラブルが顕在化しやすい傾向があります。

  1. 家族が価値を理解していない
     フィギュアやグッズの真の価値に気付かない相続人が、コレクションをまとめて処分してしまう、あるいは骨董品のような感覚で過小評価してしまうなどのケースです。結果的に、本来であれば大きな金銭価値を持つアイテムが安値や二束三文で手放されてしまうことがあります。
  2. コレクションが膨大で整理が難しい
     長年コツコツ集めてきたコレクションは、膨大な数にのぼることがあります。どこに何があり、どれがレア品なのかがまったく把握できず、相続人が困ってしまうケースも少なくありません。
  3. 家族間の認識のギャップ
     趣味に理解のある家族がいる一方で、「こんな大量のオタクグッズは処分したい」という家族がいると、意見の対立が生まれやすくなります。趣味資産の取り扱いについて、事前に話し合う機会がなかったことが原因で、相続時に衝突することも考えられます。

トラブルを防ぐための具体策

こうしたトラブルを防ぐには、以下のような対策を検討することが重要です。

  1. コレクションの一覧化と相場情報のメモ化
     いつ、どこで、いくらで購入したのか、どのくらいのレア度があるのかなど、できる範囲でリスト化しておくとスムーズです。相続人がそのコレクションの価値を理解しやすくなり、適正な評価を行いやすくなります。
  2. 家族への説明と価値共有
     生前から家族に対し、フィギュアや限定グッズなどの価値についてしっかりと説明しておくことが大切です。特にレアリティが高いものはどれなのか、思い出深い品はどれかなどを家族と共有することで、相続後の混乱を防げます。
  3. 遺言書やエンディングノートの活用
     コレクションの引き継ぎ方、保管方法、処分方法などをあらかじめ遺言書やエンディングノートに明記しておくと、残された家族が指針を得られ、トラブルの発生を減らすことができます。特に分配方法や売却時の注意点などを細かく書いておくことで、家族間のトラブルを回避しやすくなります。
  4. 専門家との連携
     相続手続きや財産評価は複雑な面があります。弁護士や税理士、行政書士などの専門家と相談しながら進めることで、適正な相続手続きが行いやすくなります。コレクションの評価額を算出する場合は、オークションサイトなどのデータも参考にできる鑑定士に依頼するとなお安心です。

高額品の注意点

レアカードや超レアフィギュアなど、取引価格が30万円以上の場合は譲渡所得、50万円を超える部分については譲渡所得税の課税対象となるため、適正な評価・手続きが必要です。生前のうちに価値を把握しておかないと、相続時に思わぬ負担やトラブルが生じるリスクがあります。

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推し活の資産相続を円滑に進めるポイント

リスト化の重要性

先述のように、まずはコレクションをリスト化することが基本です。フィギュアやグッズを写真に収めたうえでエクセルなどのデジタルツールを使い、下記の情報を一覧にしておくと良いでしょう。

  • 商品名(正式名称)
  • シリーズ名・キャラクター名
  • 購入日・購入場所
  • 購入金額
  • レア度(限定生産品、イベント限定品、サイン入りなどの詳細)
  • 現在の相場や参考価格

また、近年はQRコードやスマホアプリを活用してコレクションを管理する方も増えています。何がどこに保管されているかを可視化しておくだけでも、相続後の混乱を大幅に減らすことができます。

家族や親族とのコミュニケーション

相続で揉める大きな理由の一つが、家族間での情報共有不足です。趣味が合わない相手に対して、つい「話しても分からないだろう」という気持ちになりがちかもしれません。しかし、「自分が大切にしているコレクションにこれだけの価値や歴史がある」ということを家族と共有するだけでも、相続の際のギャップはかなり縮まります。

相続手続きはどうしてもデリケートな話題ですが、お互いの気持ちを尊重しつつ、話し合いを早めに始めることが重要です。

専門家のサポートを得る

専門家に相談することで、相続全体の流れや財産評価のポイントを把握しやすくなります。例えば、弁護士や税理士が関与することで、遺産分割協議書の作成や相続税の申告など、手続き上の問題をスムーズにクリアしやすくなるでしょう。また、アニメ・漫画のコレクション相場に詳しい鑑定士やオークションサイトのアドバイザーに相談しながら、適正価格を探ることも一案です。

専門家と連携するメリットは、法律面・税務面のリスクを軽減できるだけでなく、感情的な対立を抑えられる点にもあります。

趣味資産は「理解できる人」と「理解できない人」の差が激しいので、第三者の専門家が間に入ることで、公正な視点で価値を説明してくれるという安心感があります。

遺品整理について気になる方はこちらのコラムもご覧ください。 

今後の展望と「推し経済」の可能性

ファンコミュニティの拡大とさらなる価値向上

国内外でファンコミュニティが拡大するほど、アニメやゲーム関連のグッズに対する需要は高まります。これまで日本国内だけで循環していたグッズが、海外のWeeb層による買い支えで一気に希少価値が上がる例は、今後ますます増えると予想されます。その結果、趣味資産の価値がさらに高騰する可能性があり、相続資産としての注目度も一層高まっていくでしょう。

「推し活」が社会に与える影響

「推し活」が個人の趣味を越えて新たな経済効果をもたらす現象は、すでにアイドルやスポーツなど他のジャンルでも確認されています。ファンが積極的に消費行動を行うことで、関連グッズの生産やイベントの開催が活発化し、結果として経済が回るのです。Weeb経済でも同様に、ファンが熱を持って支え続ければ、新たなビジネスやサービスの誕生、さらには地域振興や観光促進にもつながるでしょう。

相続文化の新しい形

趣味資産が相続対象としてしっかり認識されるようになると、相続文化そのものが変化する可能性があります。これまでは「お金」に対する争いが中心だった相続も、「故人の趣味や想い」に軸足を置いた穏やかな話し合いへとシフトすることが考えられます。もちろん、資産価値が高騰した場合には金銭面での争いも起こり得ますが、事前の情報共有や遺言書の活用によってトラブルは軽減できるでしょう。

おわりに:次世代につなぐ推し経済とWeeb資産相続

趣味や「推し活」は決して個人的な楽しみにとどまらず、新たな経済圏を形成するまでに広がっています。フィギュアや限定グッズをただ集めて楽しむだけでなく、それらが将来的に高い資産価値を持つ可能性も十分に考えられます。さらに、相続の場面では、そのコレクションにまつわる思い出や情熱を次世代に引き継ぐことで、家族の絆を深めることもできるでしょう。

今回の記事タイトルにもある「推し経済は次世代へ」という言葉が示すように、Weeb資産を含む趣味資産は、私たちの大切な記憶や価値観を後世に残す手段にもなり得ます。

相続は、決して「争続」になってはいけません。むしろ家族のこれまでを振り返り、これからの未来を考えるチャンスでもあります。ご自身やご家族が大切にしてきた趣味や推し活への想いを、次の世代へと受け渡す喜び。それは単なる財産分割を超えた、新しい相続のあり方を教えてくれるかもしれません。

さいたま幸せ相続相談センターの遺品整理サポートの詳細はこちらをご覧ください。

執筆:鈴木林太郎