相続税申告・納付のご経験がない方にとって、相続税はどのように計算されているか、わからない点が多いでしょう。相続税は税務署側が計算し、納付書を相続人へ送ってくるものではありません。相続人側で被相続人が所有していた遺産の評価を調べて計算し、控除や特例も活用しながら計算を行う必要があります。

そして、相続税は「払い過ぎ」が起きてしまうことも少なくありません。本記事では相続税を過剰に納めてしまう理由を3つに分けて解説します。

相続税の払い過ぎはなぜ起きる?主な3つの理由とは

相続税の払い過ぎが発生してしまう主な理由は、次の3つが挙げられます。これから相続税を支払う予定の方も、すでに納税済みの方もぜひご一読ください。

【1】土地の評価が難しく、過剰に支払いやすい

相続税の対象となる相続財産の中に「土地」が含まれている場合は、相続税の払い過ぎが起きやすい傾向があります。

土地に課税される相続税を計算する際には、評価を行う必要があります。評価には土地の形状や周囲の環境などさまざまな要因が影響するため、非常に複雑です。

例として、広大な土地や不整形地、傾斜地などは、専門家による詳細な調査と評価が必要です。現地調査をしなければ特例の適用を見落としてしまうケースもあり、過大評価から相続税を多く支払ってしまう場合があります。

【2】相続税に精通している税理士へ依頼していない

日本税理士会連合会によると2025年(令和7年)3月末日現在、登録税理士数(活躍している税理士数)は81,696人と発表されています。しかし、登録税理士全員が相続税に精通しているわけではありません。法人や個人事業主のサポートに特化している税理士も多く、相続税申告の件数が多い税理士ばかりではないのです。

国税庁が発表している最新の相続税申告件数(令和5年度)は155,740件であり、単純に計算すると税理士1人につき約2件程度しか相続税申告は行わない計算になっています。

しかし、相続税申告を得意とする税理士の中には年間に何十件と担当することもあり、経験差が大きいとされます。こうした経験の差が土地評価などの違いに影響していると考えられます。

※参照:日本税理士会連合会 税理士登録者・税理士法人届出数(令和7年3月末日現在)
※参照:国税庁 令和5年度 相続税の申告事績の概要

【3】特例や控除の適用が漏れている

相続税にはさまざまな種類の特例や控除が用意されており、適切に適用することで相続税を抑える効果があります。しかし、適用が漏れたまま申告してしまうと、相続税が高いままです。

申告前には適用できる特例等がないか、丁寧にチェックすることが大切です。特に個人で計算し、相続税申告に臨まれる場合は適用漏れが起きやすいためご注意ください。

相続税の払い過ぎを防ぐ方法はある?

相続税を払い過ぎたとしても、税務署側から自動的にお知らせが届いて還付金が支払われるわけではありません。なるべく払い過ぎが起きないように申告を行うことが大切です。そこで、この章では相続税の払い過ぎを防ぐ方法をご紹介します。

相続開始後、早期に相続税に強い税理士へ依頼する

相続税申告には期限があります。「被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内」です。ご家族が亡くなると、葬儀や遺品整理なども続くため、あっという間に10か月を迎えてしまうおそれがあります。相続開始後はなるべく早期に相続税に強い税理士へ依頼し、相続財産評価や特例・控除の適用に漏れがないように準備を進めましょう。

申告期限までに遺産分割協議を終えておくこと

遺産分割協議が相続税の納付期限までに終わらなくても、申告期限が延長されることはありません。もしも申告期限までに遺産分割協議が終わらない場合は、未分割の状態で申告をする必要があります。申告しないと、無申告加算税等のペナルティの対象となるためです。

未分割の状態で申告する場合「配偶者の税額の控除」(相続税の配偶者控除)の適用が受けられず、特例対象となる土地が未分割の場合は「小規模宅地等の特例」も受けられません。相続人にデメリットが大きいため、申告期限までに遺産分割協議を終えておくことがおすすめです。

■未分割後に控除・特例を受ける方法もある

未分割で申告する際に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、後日遺産分割が成立すれば更正の請求や修正申告で適用を受けることは可能です。

相続税を払い過ぎていたら|還付金の請求とは

もしも相続税を多く払いすぎていることがわかったら、どのように対応すればよいでしょうか。そこで、この章では還付金の請求方法を詳しく紹介します。

相続税の還付とは

納税後に相続税の払い過ぎが発覚した場合、申告期限から5年以内であれば還付金を受けられます。更正の請求を通して還付金の請求を行うと、税務署が受付後審査を行います。

還付金の請求方法

還付金を請求するための流れは以下5つのステップです。

  • 申告済の相続税申告書の不備を詳しく調査
  • 更生の請求に必要な書類を用意し、税務署へ提出
  • 更生通知書を受領
  • 国税還付金振込通知書を受領
  • 還付金を受領

更生の請求にあたっては不動産の再評価を行うことが多く、土地家屋調査士や不動産鑑定士に依頼が必要なケースもあります。審査期間の目安は、2〜3か月程度かかり、認められた場合は国税還付金振込通知書の受領から約2週間以内に受領できます。

高額の還付金が発生するケースもあるため、慎重に手続きを進めることが大切です。なお、更生の請求の様式などについては、以下国税庁リンクよりご確認ください。

※参照:国税庁 B1-27 相続税及び贈与税の更正の請求手続 

還付金を見つけるためにはどうすればいい?

「ひょっとして、私にも相続税の還付金が発生しているかも」と思っても、還付金の有無の調べ方がわからないと、請求期限を迎えてしまうおそれがあります。では、還付金はどのように見つけられるのでしょうか。

還付金を見つけるためには、相続税に強い税理士へ相談することがおすすめです。更生の請求の実績が多い税理士に相談しましょう。なお、相続税申告時の税理士とは別の税理士への相談も可能です。

相続税は早くからご相談を|生前からの対策が重要

相続税の払い過ぎが起きてしまうと、更生の請求を行う必要があり相続人に重い労力がかかってしまいます。では、生前からできる対策はあるでしょうか。おすすめの対策方法は以下の2つです。

相続税について気になる方はこちらのコラムもご覧ください。 

生前から相続税を計算しておく

相続税は「生前」から対策を進めておくことがおすすめです。生前から相続税のシミュレーションを税理士とともに行っておくことで、適用できる特例や控除、注意すべき土地の評価なども把握できるため、実際に相続税申告を迎えた時にスムーズに申告に臨めます。

生前から対策しておくことで、納税資金の確保をどのように行うのかもイメージできるためおすすめです。

遺言書の活用もおすすめ

相続税は遺産分割協議が揉めてしまうと、あわてて計算・申告に臨む必要が生じます。そこで、生前に遺言書を残しておくこともおすすめです。遺言書があれば遺産分割協議は不要となるため、相続税申告への着手もスムーズに行えます。

遺言書は法定相続分にとらわれずに記載できるため、相続人間トラブルを回避するだけではなく、生前に介護や扶養などでお世話になった家族へ多く財産を分配することも可能です。

遺言書について気になる方はこちらのコラムもご覧ください。 

まとめ

本記事では相続税を過剰に納めてしまう理由を3つに分けて解説しました。相続税をもしも払い過ぎてしまった場合は、更生の請求を行うことで還付金として戻ってきます。しかし、手続きが複雑であるため、できれば過剰に支払い過ぎないように細心の注意を払いながら申告に臨むことがおすすめです。

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執筆:岩田いく実
監修:税理士法人ブライト相続 戸﨑貴之 税理士