相続税申告は原則として、基礎控除額以下なら申告不要です。

・相続税の基礎控除額の計算方法「3,000万+(600万×法定相続人数)」

しかし、相続税申告には注意点があります。本記事では相続税計算の結果0円でも、申告が必要なケースについて具体的に解説します。

相続税が0円でも相続税申告が必要?

相続税計算を行う際には、まずは冒頭に述べた基礎控除額の計算を行います。基礎控除額は法定相続人(※)の数によって変動するため、以下をご参照ください。

相続人の数基礎控除の計算式基礎控除額
1名3,000+(600×1)3,600万円
2名3,000+(600×2)4,200万円
3名3,000+(600×3)4,800万円
4名3,000+(600×4)5,400万円
5名3,000+(600×5)6,000万円

基礎控除の結果、もしも相続税申告が必要となった場合でも、特例や控除を適用することで相続税が0円になるケースは少なくありません。しかし、以下の特例や控除の適用は相続税申告を必要とするため注意が必要です。

(※)法定相続人に関して詳しく知りたい方は、関連記事もご一読ください。

小規模宅地等の特例を使うケース

小規模宅地等の特例とは、被相続人の自宅や事業に使用されていた宅地等を相続する際に、一定の要件を満たしていれば最大で宅地等の評価額を80%下げられる特例です。この特例を使う場合には、相続税申告を必ず行う必要があります。

特例の要件等は、国税庁の以下リンクよりご確認ください。

※参考:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

配偶者の税額控除を使うケース

配偶者の税額控除(配偶者の税額の軽減)とは、被相続人の法律上の配偶者が以下2つのいずれか多い金額について、相続税の控除が受けられるものです。

  • 1億6,000万円
  • 配偶者の法定相続分相当額

この控除は相続税の節税効果が高く、利用される方が多いものですが相続税申告がなければ控除の適用が受けられません。また、内縁の配偶者は本控除を受けられません。

※参考:国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減

寄付金控除を使うケース

寄付金控除とは、相続や遺贈によって取得した財産を相続税の申告期限までに国や地方公共団体などに寄附した場合等について、寄附をした財産や支出した金銭は相続税の対象としない特例のことです。

特定の公益信託の信託財産とするために支出をした場合も、控除の対象となります。しかし、寄付金控除についても受ける場合は相続税申告が必要です。

※参考:国税庁 No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき

相続時精算課税制度を利用していたケース

相続時精算課税制度を利用して贈与をしていた場合は、以下のケースで申告が必要になります。

被相続人の相続財産の総額に、相続時精算課税制度の贈与財産を加算した金額が基礎控除額を上回っている場合は、相続税申告が必要です。

例として、法定相続人を2名・相続財産4,000万・相続時精算課税制度の贈与を2,500万円とします。

  • 基礎控除は3,000+(600×2)=4,200万円
  • 相続税申告の対象となる財産は6,500万円
  • 基礎控除を2,300万円上回っており、相続税申告の対象

また、基礎控除を下回っている場合でも相続税申告が必要な特例や控除を使う場合は、申告が必要です。

特例や控除の適用があるのに相続税申告を忘れたらどうなる?

特例や控除を適用するにもかかわらず、相続税申告を忘れてしまったら一体どうなるのでしょうか。この章で解説します。

特例や控除が使えなくなる

相続税申告をしなかった場合は、申告が必要な特例や控除は使えなくなってしまいます。もしも申告漏れに気付いたら、早急に修正申告や期限後申告で対応する必要があります。

また、特例や控除の申告は慎重に行う必要があります。例として、小規模宅地等の特例は相続税申告後、申告とは異なる土地の方が有利だったと判明しても、適用宅地等を変更する「更正の請求」は認められていません。

特例や控除の適用は相続税申告時に必要となる書類も多く、税理士へ相談の上で進めることが大切です。

遺産分割協議が相続税申告期限までに終わらなかったらどうする?

相続人間の遺産分割協議がまとまらず、相続税の申告・納税の期限が迫っている場合でも、税務署は申告期限の延長は原則として認めていません。協議が終わっていない場合は法定相続分で按分した金額で計算をし、一旦は申告・納税をする必要があります。

この時、未分割の財産に対して配偶者の税額控除等は受けられないため、「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出を行い、分割決定後の翌日から4か月以内に更正の請求や修正申告で適用を受ける必要があります。

結果として0円ではなくなり相続税が課税されるおそれ

相続税申告が漏れてしまい、特例や控除が使えなくなってしまったら、本来は相続税が0円であったはずが、結果として課税されてしまうおそれがあります。

また、相続税が発生しているのに相続税申告が漏れていると、無申告加算税や延滞税等のペナルティも加算されてしまいます。

■相続税申告が遅れると課される主なペナルティ
・延滞税
・無申告加算税
・過少申告加算税
・重加算税

控除の中には申告不要もあるため注意

ここまで読んでいただくと、相続税に適用できると特例や控除については「必ず申告が必要」と思うかもしれません。しかし、申告が不要な控除もあるためご注意ください。

■申告が不要な控除
・障害者控除
・未成年者控除
・相次相続控除
・みなし相続財産に適用される非課税枠

相続税申告は税理士へご相談を|注意しながら臨もう!

相続税申告にはさまざまな種類の特例や控除が設けられており、上手に活用することで相続税を節税する効果があります。しかし、正しく特例や控除の適用を受けるためには、たとえ相続税計算の結果0円であっても相続税申告が欠かせないものもあるため注意が必要です。

相続税申告には相続の発生を知った日の翌日から10か月以内という申告・納税の期限もあるため、遅れないように準備を進める必要もあります。相続税申告には生前からの備えが大切です。

生前から制度の理解や準備を進めておく

相続税については、家族が元気なうちから制度の理解や準備を進めておくことが大切です。適用できる特例や控除の知識を家族全員で把握しておくためにも、生前から「相続税のシミュレーション」を行っておくこともおすすめです。

シミュレーションをしておくことで、納税に必要な金額も把握できます。相続税は原則として現金で納付する必要があるため、生前から準備を進めておきましょう。

申告の有無は税理士に相談し確認しよう

「相続税の計算をしたら0円だったので、申告は不要だろう」

相続税の計算はネット上に公開されている計算ツールもあるため、ご自身で計算をしたことがある方もいるでしょう。しかし、実際に相続税申告・納税に臨む場合には、適切な相続財産の評価を行う必要があります。

また、申告にあたっては書類の準備も多く、ご自身で全て行おうとすると、申告期限を迎えてしまうおそれもあります。申告に遅れてしまうと延滞税なども発生してしまいます。

相続税申告は非常に複雑な手続きであり、まずは早期に税理士へ相談されることがおすすめです。

まとめ

本記事では相続税が0円でも、相続税申告が必要となるケースについて詳しく解説しました。小規模宅地等の特例や配偶者の税額控除などを活用される場合には、相続税申告を漏れなく行う必要があるため注意が必要です。相続税申告はこの他にもさまざまな注意点があるため、生前から準備を進めておくことがおすすめです。
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執筆:岩田いく実
監修:税理士法人ブライト相続 戸﨑貴之 税理士