こんにちは、相続コンサルタントの馬渕です。
ご相続で不動産を取得された場合に、相続した不動産をこれからどうするか?
頭を悩ませる方も大変多くいらっしゃいます。実際に、空き家となった不動産の取得理由の半数以上が相続をきっかけとしているというデータもございます。

すでにご自身でご自宅を所有している方の場合には、売却したり賃貸に貸し出すことなどを検討されることかと思います。場合によっては空き家の引き取り手が見つからず、相続した不動産を手放すことができず大変な苦労をしておられる方も多くおられ、空き家問題は社会課題にもなっています。

人口減少化の日本においては、単純にスクラップアンドビルドを続けていくだけではなく、これまでにはない不動産の活用という視点も非常に重要となってくると考えています。空き家を住まい以外の活動の場として活用していくことも、空き家問題を解決していく糸口になり得ます。例えばこども食堂といったような地域コミュニティに寄与するような活動の場として、二拠点生活者のためのコワーキングスペースといったように、有意義に活用していくことが今後価値が見いだされることと期待しています。

相続した不動産が、再建築不可物件・既存不適格物件だったら…

相続した不動産や空き家を活用するにあたり大きな影響がある建築基準法の法改正が、2025年4月に施行されます。建物の区分について4号建築が廃止し、新2号建築物、新3号建築物に再編されることとなり、前回のコラムでは、本改正についての概要をご紹介いたしました。
(前回コラムリンク⇒https://saitama-shiawasesouzoku.jp/news/14072/
今回はその2として、特に影響のある既存不適格建物や再建築不可の建物についての解説を詳しくご説明いたします。

新築当時は適法に建てられた建物であっても、竣工後の法改正に伴い現行法上の規定に適合していない建物を「既存不適格建物」と呼びます。国土交通省によると、既存住宅のストックのうち戸建て住宅は約51%が既存不適格と推定されています。(統計データが不足しておりあくまでも推計になりますが、実際の数はさらに多い可能性もあります。)

「再建築不可物件」とは、建築基準法上の接道義務(建築基準法上の道路に2m以上接道をしていない土地には新たに建築することができない)を満たしていない土地にある建物・土地のことです。

再建築不可物件の場合、現在建物が建っている土地であっても、解体してしまうと新たに建物を建築することができない状態となります。国交省の推計によると、住宅ストックのうち全国で約400万戸が接道義務を満たしていない可能性があるとされています。東京の下町などでは、細い入り組んだ路地に建物が密集しているエリアなどもまだまだ残っていたりしますが、これらは再建築不可の建物である可能性が非常に高いです。
接道義務は火災などの災害時の避難経路の確保、緊急車両の通行の為、また日当たりや風通しなど良好な住環境の維持を目的として定められたものであり、私たちの生活の質や安全性のために守るべき規定と言えます。

どうして再建築不可物件・既存不適格建物がそんなにたくさんあるの?

いわゆる耐震偽造問題などが記憶にある方もいらっしゃるかと思います。阪神淡路大震災後に耐震基準が見直されたり、いわゆる耐震偽造事件をきっかけに審査機関が厳格化されたりしています。そのほか、様々な安全性の議論や社会情勢、建築技術の向上などの要因で建築基準法など適宜改正が行われています。
このように、建物に関わる法律も年々厳格化し、頻繁に法改正され新しい基準が設けられるたびに、既存の建物が既存不適格建物となってしまうことがあります。

また、建築基準法自体が1950年に制定された法律となります。1950年の建築基準法制定時に、建築基準法上の道路への接道義務などの要件が正式に定められました。

建築基準法制定以前の建物は、当然接道義務を満たしてないものが当然存在しており、その名残がまだまだ残っていると言えます。高度経済成長期には住宅不足の解消のため多くの建物が供給されました。そのころはまだまだ接道義務に関する認識が低かったり、また検査機関なども体制も不十分であった為、建築基準法で定められているものの接道義務を満たしていなかったり、建築基準法の基準を満たさない建物が建築されていた可能性があります。

再建築不可物件・既存不適格建物だった場合はどんな影響がありますか?

再建築不可・既存不適格建物は、一般的に不動産評価額が下がること、また金融機関のローンの利用が難しいといったデメリットがあります。特に再建築不可の建物については、建物解体後再度建築をすることができない土地となってしまう為、売却自体も難しい傾向にあります。是正するためには、接道を確保できる隣接地を購入し建築できる土地にするといった対策が必要となります。

既存不適格建物については、実際に改修工事を行う際に現行の建築基準法に適合させる必要があります。耐震基準を満たすための補強工事や、防火設備の設置の他、現行法に合わせた是正が求められます。
このような事情から、今後リフォームを検討しても実際に工事ができないという可能性が生じてしまいます。

リフォームができない可能性があるケース

接道を満たしていない再建築不可の建物の場合

接道義務を満たしていない建物については、現行の建築基準法の要件に適合させることが物理的に難しいと考えられます。新2号建築物に該当する建物、建築基準法上の大規模修繕・模様替えに該当する修繕等を実施する場合には、「確認申請・検査」を実施することが求められることとなりました。しかしながら、接道義務を満たしていない建物は確認申請がそもそも通らず工事を実施できないというケースが今後増える可能性があります。
是正するためには、接道を満たすための土地を購入または譲渡してもらい土地を確保したり、敷地の一部を道路として提供しセットバックするなどの対応が必要ですが、大変な労力を割きますので誰しもが解決できる現実的な方法はないといえるでしょう。

建物の構造が著しく老朽化している場合

現行の耐震基準を満たすことが難しいといった構造的な問題がある場合は、大規模な改修工事が困難になる可能性があります。一部の改修工事を行う場合でも、建築基準法上の大規模修繕・模様替えに該当する場合には既存の耐震基準を満たすよう是正が求められる為です。

図面や検査済証の保管がない場合

古い建物で建築図面や検査済証が残っていない状況での大規模修繕における建築確認申請は、通常の申請よりも複雑になります。
建築士などの専門家による現地調査を行い、現況の図面を作成する必要があります。合わせて、構造計算書を作成し、確認申請書類を作成する必要があります。
既存の建物の図面作成や構造計算を実施する場合には、一般的には新築の図面を起こすよりも労力がかかると言われています。経年劣化等によって性能を満たしていない状態であったり、実際の寸法と仕様が異なっていたり、また壁や天井や基礎など、目視できない構造を推定するなど不確定要素が多いためです。
その為、これまでよりも多額の費用が必要となり、費用面での負担・時間的な負担も大きくなり断念せざるを得ない状況になってしまう可能性があります。

以上が、建築基準法上の改正により懸念される注意点となります。

古い建物を相続した場合、特にここでご紹介した再建築不可・既存不適格の建物について、建物を活かし活用していくためには大きなハードルがあることがお分かりいただけたかと思います。既存不適格建築物を現行法に適合させるための改修工事は、多額の費用がかかる可能性があり、建て替えを選択する所有者が増える可能性があります。また再建築不可の建物については、改修も売却もできず放置空き家となってしまうリスクも内在していると感じています。
ご相続で空き家を取得された場合に限らず、実際にお住まいのご自宅がこれらに該当する場合、住み続けていくためには今回の改正についてしっかりと情報収取をして備えていただくことが必要となります。

さいごに

今回の法改正の趣旨は、持続可能な社会の実現に向けて、建築物の安全性の向上と環境負荷の低減を目的としています。
ミクロな視点では、既存の新2号建築物に該当する建物についての活用を考えると結果的に規制が厳しくなった結果、建て替えを選択せざるを得ずスクラップアンドビルドを助長する可能性は否めません。安全性に問題のある古い建物については、当然整備が必要ではありますが、古い建物自体は愛着のある街並みの保全や地域コミュニティの維持にもつながる価値のあるものです。安全性・収益性といったバランスを保ちながらも、スクラップアンドビルドだけではない既存の建物の価値を再認識していくことが必要です。持続可能な社会の現実に向けて、短期的な視点と長期的な視点の両軸で、空き家の活用を検討していくことが今後さらに求められていくものと言えます。