皆さんこんにちは。
相続コンサルタントの久保田です。

相続対策の一つに資産管理法人を設立して、個人所有の不動産を法人に移転する方法があります。
直接相続税を節税する効果はありませんが、資産管理法人が不動産を所有することで、賃料収入を資産管理法人に移転できますので、長期的には個人の方の預貯金が貯まることを抑制して相続税節税にも繋がります。
収益不動産をお持ちの方では生前対策としてよく使われる手法なので、今回は資産管理法人を活用した生前対策の方法や効果を説明していきたいと思います。

資産管理法人を活用すると

アパートなどの収益不動産をお持ちの方は毎月賃料収入を得られるため、毎月使う金額<賃料収入であれば預貯金額が増えていくことになります。
使いきれなかった余剰分を生前贈与等でお子様やお孫様にお渡しすることも出来ますが、お子様やお孫様が役員を務める資産管理法人を設立して賃料収入の一部を法人が受け取ることで、スムーズにお子様やお孫様が役員報酬としてお金を受け取ることができるようになります。
加えて、お子様やお孫様が早い段階から賃貸経営に触れることで、相続が発生した後の賃貸経営への不安も軽減され、スムーズな事業承継にも繋がります。
また、個人の所得税と法人税を比較すると、一定上の賃料収入がある方は法人税の方が税率が低くなりますので、節税の観点でいうと所得税の節税が中心になるかと思います。

資産管理法人の活用方法

生前対策で資産管理法人を活用する際に、以下の3パターンのいずれかが利用されます。

①賃貸管理方式

 資産管理法人を収益不動産の賃貸管理会社にして、管理手数料(賃料収入の5%前後)を資産管理法人の売上として移転します。
 <メリット>
 ・初期費用を抑えられる
<デメリット>
・法人に移転できる金額が少ない
・実際に賃貸管理業務を行う必要がある

②転貸方式

収益不動産を一括して資産管理法人が借上げて、資産管理法人がいわゆるサブリースを行います。
転貸料(実際の賃借人様から法人が受け取る賃料)の内、80%~90%を借上賃料(不動産所有者様が受け取れる賃料)として設定することが多く、管理方式より大きな金額を法人に移転できます。
<メリット>
・建物移転方式より初期費用を抑えられ、管理方式より大きな金額を法人に移転できる
・資産管理法人が転貸人になるため賃貸管理業務の実績は不要
・転借人とトラブルになった際に、資産管理法人が当事者として対応ができる
<デメリット>
・空室が出た際も借上賃料を定額で支払う必要がある

③建物所有方式

 ①②は収益不動産の所有権は個人のままでしたが、建物所有方式では収益不動産のみを資産管理法人に移転することで、より大きな金額を資産管理法人に移転できます。
 <メリット>
 ・賃料収入はすべて資産管理法人が取得できる
・土地を所有する個人は地代として一定金額を資産管理法人から受け取れる
<デメリット>
 ・建物取得費用が高額

それぞれ一長一短がありますが、資産管理法人に移転できる金額が大きい③建物所有方式が使われることが一般的だと思います。

資産管理法人に建物の所有権を移転する方法

いくらご家族で設立した資産管理法人といえ単純に不動産の名義を資産管理法人に変更できるわけではなく、基本的には売買で個人から資産管理法人へ所有権を移転します。
ここで気になるのが建物の売買価格ですが、一般的には「簿価」か「不動産鑑定士による鑑定評価額」のいずれかになると思います。
簿価とは、建物の取得価格から減価償却累計額を控除した価格で、築年数が経過した建物の簿価が低額になることから簿価での売買を選択されるケースが多いように感じます。

ただ、建物の売買価格は基本的に「時価」とされていますので、安易に「簿価」での売買にせず、不動産に強い税理士に相談の上適正な価格を決定していただくことをお勧めします。

また、売主(個人)と買主(資産管理法人)がほぼイコールと考えられることが多く、建物の売買価格を抑えることが一般的ですが、資産管理法人の預金を個人に移すために、建物売買価格をあえて高額に設定することも考えられます。
この場合でも「時価」が一つの基準となり、高額に設定した建物売買価格と「時価」との差額が贈与や一時所得・給与所得として課税されることがあります。
加えて、建物の売買価格が取得価格を上回っている場合は譲渡所得税も課税され、納税後にお手元に残る金額が減ってしまいますので、「時価」より高額で売却する場合は、どのような税金が課税されるかを税理士に相談して売買価格を設定することをお勧めします。

また、売買以外で建物を法人名義にする方法として現物出資がありますが、相続の場ではほとんど利用されることがないかと思います。
不動産を現物出資で法人名義に移転する場合、個人としては不動産を「時価」で売却したとみなされてしまうため、譲渡所得税が課税されることもあり思いの外コストがかかってしまうことになります。
また、検査役の検査が必要になることが多く、一見すると法人設立費用を抑えられて、かつ不動産を法人に移転できる方法に見えますが、よくよく調べると手間やコストがかかることがわかり、売買での所有権移転を選ぶことになると思います。

不動産を法人名義にするメリットはあるのか?

ケースバイケースですが、不動産を法人名義にするメリットはあると思います。
相続の観点では、個人にたまり続ける賃料収入を資産管理法人を通してお子様やお孫様に移転することができるので、長期的に考えて相続税対策や分割対策になります。
また、一定水準以上の賃料収入がある方は、法人税の方が個人の所得税より税率が低くなることがありますので、所得税対策にもなります。

ただ、資産管理法人としては、不動産の売買代金を確保する必要があり、個人・法人ともに売買価格によって様々な税金が課税されてしまうので、資産管理法人や不動産に強い税理士に相談して、不動産を法人名義にする目的を達成できることを確認してから実行していただくことをお勧めします。

当センターでも相続対策の一つとして、資産管理法人設立からサポートを対応させていただいておりますので、ご所有の不動産を法人名義へ変更をご検討されている方はお気軽にご相談ください。