相続に直面した時、遺産をめぐって家族が争う可能性はあるのか不安を感じている方は少なくありません。これから遺言書や贈与で相続対策を進めたい方も、家族が亡くなり相続が開始された方も、できれば遺産を争うトラブルは避けたいとお考えでしょう。
そこで、本記事では裁判所が公表している最新の「司法統計」を基に、もめやすい遺産分割の争いとはどのようなものか詳しく解説します。トラブルが起きやすいご家庭や、埼玉県の資産継承の傾向にも触れますので、ぜひご一読ください。

もめやすい遺産分割とは?最新の司法統計を解説
この章では「もめやすい遺産分割」について、最新の司法統計を読み解きながら詳しく解説します。本記事では、下記リンクの令和5年度の司法統計を参考にしています。各章ではページ数をご紹介しています。
参考: 令和5年 司法統計年報3 家事編
もめる当事者数は2名
遺産分割は、遺言書がなく法定相続人が2名以上いる場合に行われます。では、相続人が何人の場合、もっとも遺産分割がもめやすいのでしょうか。
令和5年の司法統計を確認すると、遺産分割協議で終局を迎えた事件において、最も多い当事者数は「2名」で、4,005件です。次に多い当事者数は3名(3,893件)、続いて4名(2,078件)となっており、終局区分別当事者の全体数13,868件のうち、2~4名が占める割合は約7割に達しています。
相続人2~4名程度の遺産分割協議がもっとも、もめやすく、特に2名で争うケースが多いため、相続人が「兄弟姉妹」であり親の遺産をめぐって争うケースが多いと考えられます。
相続人がたくさんいるからもめる、のではなく、ごく普通の一般家庭でも相続トラブルは多いのです。
参考:令和5年司法統計 第46表 遺産分割事件数―終局区分別当事者の数別―全家庭裁判所 P64
もめる遺産総額は5,000万円以下
遺産分割の争いは、高額の財産をめぐって起きるものと思っていませんか。実は決してそうではありません。
司法統計では、遺産分割事件を遺産価額別に分けて公表しています。全体件数7,234件のうち、最も多い遺産価額は「1,000万以上~5,000万以下」の3,166件です。次にもめたのは「1,000万円以下」の2,448件、続いて「5,000万円以上~1億円以下」が863件です。
つまり、1億を超える富裕層だけが遺産をめぐって争っているのではなく、遺産額が5,000万円以下のご家庭が7割に達しており、多くもめていることがわかります。
参考:令和5年司法統計 第52表 遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割をしない」を除く) 遺産の内容別遺産の価額別 P66,67
遺産分割協議は「普通の家庭」ももめやすい
「我が家は遺産が少ないから大丈夫だろう」
「遺産をめぐる相続トラブルって、富裕層の問題でしょう」
このようなイメージを持っている方は多いですが、上記の司法統計のとおり、相続人数が4人以下、遺産が5,000万以下の層が多く相続トラブルに直面しています。
相続対策は「相続税向け」に行われるイメージが強く、資産が多いご家庭や事業継承を予定されている方に必要な対策と思われがちです。しかし、普通のご家庭でも相続時の遺産分割争いを避けるために、相続対策を進めることがおすすめです。
遺産分割調停に発展すると解決に必要な時間は?
遺産分割協議が相続人間でまとまらない場合、遺産分割調停を家庭裁判所へ申し立てることで、解決を目指す方法があります。
では、遺産分割調停に発展した場合、解決に必要な「時間」はどのぐらいなのでしょうか。こちらも最新の令和5年度司法統計から解説します。
1番多い件数は「1年未満」
遺産分割調停の終結までに要した期間で最も多いのは「半年以上~1年以内」で4,581件です。次に多いのは「1年以上~2年以内」の3,195件、続いて「3か月以上~6か月以内」の3,108件となっています。なお、全体の件数は13,872件となっており、1年以内で解決できるケースが5割を超えています。
しかし、遺産分割の内容が定まらない期間が1年近くもあると、預貯金口座の解約・相続登記などの主要な手続も遅れることになります。また、実施期日回数は「6回~10回」が最も多く、調停に発展すると相続人に負担は大きいと言えるでしょう。
参考 第45表 遺産分割事件数―終局区分別審理期間及び実施期日 回数別―全家庭裁判所 P63
2年~3年かかるケースも多い
同上の統計では、遺産分割協議に要する期間の第2位が「1年以上~2年以内」となっており、長期間にわたって調停に臨まざるを得ないケースも多いとわかります。「2年以上~3年以内」は861件、3年を超えるものも507件あります。
筆者が過去に相続取材でお聞きしたある遺産分割調停は、解決までに要した時間が「5年以上」でした。長期間もめていると、相続人のどなたかが亡くなってしまうことも少なくありません。すると、新たな相続人が増え、トラブル終結の見通しが難しくなってしまいます。
どうすれば遺産分割の争いはなくせる?対策を紹介
普通のご家庭であっても、できれば遺産分割時の争いを避けるために、対策を行うことがおすすめです。遺産分割の争いを回避するためには、生前からできること・相続開始後にできることがあります。
生前にできること
生前にできる遺産分割トラブルの回避策は、以下のとおりです。
- 贈与を進めておく
- 遺言書を作っておく
- 家族で話し合いを重ねておく
- 専門家のアドバイスをもらっておく
生前にできる相続の対策には、贈与や遺言書を活用することがおすすめです。特に相続人間で仲が悪いケースでは、遺言書で財産を残したい相手を指定しておくと良いでしょう。また、家族でしっかりと話し合いを重ねたり、相続に詳しい専門家で相談し、トラブルになりそうな要素を洗い出しておくこともおすすめです。
さいたま幸せ相続相談センターでも、遺言書作成サービスを行っております。
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相続開始後にできること
相続開始後に遺言書がなく、複数の相続人間で遺産分割協議を行う場合は、以下の対策を行いましょう。
- 介護や扶養で貢献した人には配慮をする
- 法定相続分どおりに相続し、トラブルを回避する方法もある
- 争いになりやすい不動産は、慎重に話し合いを重ねる
- もめている場合は早めの遺産分割調停もおすすめ
遺産をめぐるトラブルを避けるためには、慎重な話し合いが欠かせません。特に生前に介護や扶養で貢献してくれた相続人がいる場合は「寄与分」をめぐって話し合いが長期化する可能性があります。苦労を重ねてくれた相続人に報いるような配慮をし、解決を目指すことも考えられるでしょう
また、すべての遺産を「法定相続分」どおりに分割し、早期に解決する方法もあります。ただし、この方法は不動産において「共有状態」を生み出してしまい、売却や賃貸化がしにくくなるおそれがあります。不動産のある相続では回避することがおすすめです。
埼玉県内の相続の傾向とは?東京都と比較結果も紹介
これから埼玉県内で生前の相続対策を行いたい、あるいは今から相続手続きに臨まれる方向けに、埼玉県内の相続の傾向も東京都と比較しながら簡潔に解説いたします。本章は
MUFG資産研究所が2021年に行った「退職前後世代が経験した資産承継に関する実態調査」をもとに解説します。
参考:MUFG資産研究所 退職前後世代が経験した資産承継に関する実態調査全国47都道府県レポート【埼玉県の特徴】
参考:MUFG資産研究所 退職前後世代が経験した資産承継に関する実態調査全国47都道府県レポート【東京都の特徴】
親から財産を相続した財産平均額は全国3位
埼玉県の相続の傾向としては、親から財産を相続した平均額は全国3位に上っており、豊かな資産を持つご家庭が多いと言えるでしょう。平均額は4,121万円で、不動産や死亡保険金を含む現金、預貯金が資産の多くを占めています。
東京都は全国1位となっており、5,469万円です。不動産の割合が埼玉県よりも高くなっています。不動産評価額が都内は高いため、このような結果となっている可能性は高いでしょう。
被相続人との同居率は東京都より高い
被相続人である親との同居率は埼玉県の場合32.9%、東京都の場合は27.3%であり、埼玉県の方は親と同居していた上で相続手続きをされた方が多くなっています。
同居をしていた方が親の資産状況は把握しやすく、生前の話し合いも持ちやすいと考えられるでしょう。
まとめ 円満な相続に向けて準備を始めませんか
今回の記事では、令和5年度の司法統計やMUFG資産研究所の調査を使って、遺産分割や相続の実態について詳しく解説しました。相続は高額の資産を保有していたり、相続人が多いケースばかりがもめるわけではありません。むしろ、もめやすいのは「普通のご家庭」といえる結果でした。
埼玉県の場合、全国トップクラスの資産状況であり、これから相続を迎える可能性がある方は、ぜひ相続対策を始めることがおすすめです。幸せで円満な相続に向けて対策を始めませんか。
一般社団法人さいたま幸せ相続相談センターでは、埼玉県内で活躍する税理士、司法書士、弁護士、相続コンサルタント等の専門家がチームになって全力でサポートしています。元気なうちから始める生前の相続対策、相続開始後の円満な手続に向けたサポートのいずれにも注力していますので、まずはお気軽にご相談ください。
執筆:岩田いく実
監修:おがわ司法書士事務所 小川直孝 司法書士