皆さんこんにちは。相続コンサルタントの久保田です。
身元保証などの高齢者サポートサービスをご存知でしょうか?
頼れる家族がいない高齢者の方に対して、事業者が入院や介護施設への入居の手配や費用の立替えをするサービスで、おひとりさまが増える中で利用する方が増えています。

一般的には身元保証とともに日常生活のサポートや、死後事務(ご遺体の確認・引取、賃貸物件の原状回復)がセットになることが多く、おひとりさまのご不安を和らげるサービスです。
今後もご利用される方が増えていくサービスだと思いますが、トラブルが発生することもあり、1月8日の日経新聞朝刊(高齢者「身元保証」、トラブルが急増――公的サービス手探り 静岡市、事業者の認証制度)では、トラブル増加に伴い静岡市では、終活支援事業者の認証制度が作られたという記事がありました。
※参考:2025年1月8日 日本経済新聞
高齢者のおひとりさまのご不安を和らげるサービスでトラブルが起こってしまうことが残念ですが、静岡市の認証制度によってトラブルになりやすい点や依頼する際に注意していただきたい点が見えてくると思いますので、今回は静岡市の認証制度をもとに身元保証サービスについて考えたいと思います。
成年後見制度と身元保証サービスの違い
成年後見制度は、意思判断能力が低下した方や意思判断能力がなくなった方(成年被後見人)の財産管理や身上保護をする成年後見人を家庭裁判所が選任する公的な制度で、原則年1回の家庭裁判所への報告によって成年被後見人の財産状況が適切に管理されているかなどの確認体制があります。
一方で、身元保証サービスは民間の事業者が提供するサービスで、意思能力が低下していないものの、お近くにご家族がいない高齢者の方の日々の生活お世話をしたり、お亡くなりになった後の手続きをしたり、様々なお手伝いをするサービスです。
お元気なおひとりさまの高齢者の方にとっては日々の生活や将来のご不安を和らげるうえで必要なサービスではありますが、現状成年後見制度のような事業者を監督する制度は無く、身元保証サービスによってトラブルが発生してしまうことも事実です。
ご家族の代わりとなって日々の生活をサポートする分依頼者様との距離も近くなり、第三者に監督されることが無いので、悪いことをしようと思えば出来てしまう立場にあるのかもしれません。
成年後見制度でも、成年後見人が成年被後見人の財産を使い込んでしまったといったニュースを目にすることもあり、家庭裁判所のような第三者の監督があってもトラブルは起きてしまうのですが、上記のとおり監督制度がない分、信頼できる事業者選びが重要になると思います。
静岡市終活支援優良事業者認証事業の内容
このような現状がある中で、静岡市では令和5年度から「静岡市終活支援優良事業者認証事業」を開始しています。
この制度では、要項の中で定められた要件を満たす事業者を「優良事業者」として認証しており、適切な依頼先を選ぶ一つの指標になるものだと思います。
要項の中では、(1)終活の支援を目的として行う、生前事務サービス及び死後事務サービスを行うもので、申請日まで引き続き1年以上そのサービス提供を行い、12か月分の決算が確定しているもの (2)静岡市内に本店、支店又は営業所等を有する法人であるもの の2点を前提として、別表で30の項目を満たすことで優良事業者の認定を受けられるとされています。
※参考:静岡市終活支援優良事業者認証事業実施要綱
別表の定めでは大きく、組織運営に関する要件、契約の締結・履行に関する要件、サービスの管理に関する要件がありますが、その中で①「事業者は、利用者から遺贈を受けず、かつ、事業者は、利用者との間で死因贈与契約を結ばないこと。」②「第三者(契約者本人と事業者以外で、事業者と利害関係のないもの)が契約締結時に立ち会っていること。(契約についての公正証書の作成を含む)」③「利用者は、いつでも、終活支援事業に係る終活支援事業者との間の契約を、将来に向かって解約することができることとし、終活支援事業者は、契約書及び重要事項説明書において、その旨を明示することとしていること。」④「預貯金の管理について仕組みを整備していること」の4点については、これらが重要なポイントだと思えます。
遺贈を受けないこと・死因贈与契約を結ばないこと
前述の通り、身元保証サービスの事業者は、依頼者にとってご家族と同様の関係になることもあり、依頼者の好意によって遺言書で事業者を受遺者にしていることもあるかもしれません。
依頼者の本心でそうすることも考えられますが、悪意のある事業者は遺言書で自身を受遺者に指定させたり死因贈与契約の締結をさせたりすることも考えられます。
身元保証サービスに限らないことですが、入口の基本報酬は安価に設定して契約を締結して、付随業務等で高額な報酬を設定することもありますので、そのような契約を避けるためにも、この要件は重要なポイントだと思います。
第三者が契約締結に立ち会うこと
身元保証サービスの契約では、日々の生活や将来にご不安のある高齢者が依頼者になりますので、依頼する事業者を比較検討するよりもいち早くご自身の不安を解消するために契約内容をしっかりと理解していない状態で焦って契約を締結してしまうこともあるもしれません。
要項では、利害関係のない第三者の立会いが定められており、冷静な第三者が介入することで依頼者にとって不利な契約を未然に防ぐ目的があると思います。
いつでも契約を解約できること
身元保証契約は基本的には依頼者が亡くなるまで継続する契約なので、中途解約が定められていることが重要です。
いつでも解約ができることに加えて、解約や精算の方法も契約書や重要事項説明書に記載することが要件となっていますので、契約後に何か問題があって解約したい場合もスムーズに解約ができる体制を事業者が整えることは依頼者の安心にも繋がると思います。
逆にいえば、中途解約が契約書に明記されていない場合はスムーズに解約に応じてもらえない可能性があるのでは?と、契約締結をより慎重に検討していただいた方が良いと思います。
預貯金の管理について仕組みを整備していること
例えば家族信託でも、信託財産に含まれる委託者の預貯金は、受託者名義の信託口座で管理することになります。
あくまで受託者は委託者から財産を預かって管理する立場なので、自身の財産と区別して管理を行う必要があり、万が一受託者が破産した場合でも委託者の財産として明確に区別しておくことで差し押さえの対象から外すことが出来ます。
身元保証サービスでも、事業者が破産した際に依頼者の預貯金と事業者の預貯金を区別せずに管理している場合、依頼者の預貯金を回収できない可能性があります。
この点は契約書に記載がない可能性はありますが、契約締結前に依頼者の財産の管理体制を確認することをお勧めします。
身元保証サービスの今後
2023年8月7日付けで総務省から「身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の推進に関する調査の結果」が公表されており、2024年11日には内閣府から「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン(案)」がされ、国としても身元保証サービスに対する問題解決に向けた姿勢が伺えます。
※参考:総務省「身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の推進に関する調査の結果」
また、令和6年版高齢社会白書によると、65歳以上の単身世帯は令和2年時点の実績値以降は年々増加する推計がされており、単身高齢者世帯の増加に伴い身元保証サービスの事業者の増加が予想されます。
※参考:令和6年版高齢社会白書
身元保証サービスは日々の生活のサポートで、緊急時には深夜でも駆けつけることが必要であり、利益だけを追求する事業者には対応できないサービスだと考えています。
身元保証サービスの契約を検討する場合は、どの事業者に依頼するかは将来のご不安軽減のための重要なポイントだと思いますので、依頼予定の事業者がしっかりとした事業者なのかの見極めが必要になります。
今回静岡市の要項をご紹介しましたので、要項の別表と照らし合わせていただくとご検討中の事業者が優良かどうかの指標になると思います。依頼先の比較検討が難しい場合は、当センターで事業者をご紹介することも出来ますので、お気軽にご相談ください。
監修:おがわ司法書士事務所 小川直孝 司法書士