こんにちは、相続コンサルタントの馬渕です。
固定化された結婚観・家族観、パートナーシップの形も多様化してきていると日々感じるようになりました。
2000年代初頭から、シェアハウスという暮らし方も広まり、若い世代では親元を離れてからシェアハウスでしか暮らしたことがないという方もいます。シェアハウスというと、若い人の暮らし方のように思いますが、2000年代初頭からシェアハウスで暮らしてきた人たちが年齢を重ね、子育てシェアハウスで子育てをしたり、シングルマザーたちのシェアハウスが生まれたり、いわゆる「核家族」という未婚の子供たちを夫婦が育てるという家族のありようにも変化が生まれてきています。
離婚をする夫婦や単身世帯も増加し、パートナーとあえて籍を入れない事実婚や同性婚といった様々なパートナーシップの形も一般的になりつつあります。
これまでの家族観とは異なる多様な選択する方も増え、社会もそれを認めつつある一方で、法律上の制度はこういった現実とは、いまだ大きく乖離している部分もあります。価値観の多様化と法律の狭間によって、現実的な課題に直面している方のご相談をお受けすることも増えてきました。
私たちは日々、様々な方の多岐に渡るご相続のご相談をお聞きしながら、まずは「遺言書」を作成していただくことをおすすめしています。
個人的にも遺言書を残すことは、少しずつご自身の人生を改めて見直すことにつながり、家族に限らず大切な人やお世話になった方に想いをつなぐバトンのようなものだと考えています。
離婚・再婚した家族がいる場合
厚生労働省の令和2年度に行われた調査においては、令和2年では約19万3千組の離婚数があるそうです。均して一生の間に結婚する回数に対する平均して一生の間に離婚する回数の割合は、男女とも0.32 となり、およそ結婚した3組に1組が離婚していることになるというデータを公表しています。
離婚について、特に若い世代ではネガティブな印象も薄れ、よりよい人生のための一つの選択として前向きにとらえている印象があります。
前述の厚生労働省の令和2年調査によると、全体の離婚数のうち、過半は親権を行う子供がいる離婚となっています。
ステップファミリー(いわゆる、連れ子再婚)も増加しており、ひとくくりにはできない個々のご家族観による機微な関係性が築かれています。
※参照:厚生労働省 令和2年(2020) 人口動態統計月報年計(概数)の概況
離婚した夫婦の間に子供がいる場合の相続はどうなる?
離婚をした夫婦は互いに相続権がありませんが、子供は両者それぞれの相続人となります。夫婦の法的な婚姻関係が解消されると、日本では親権を共同で持つことができない「単独親権」となり片親が親権をもちます。(※共同親権の成立についても議論がなされているところですが、令和6年時点の法律に基づいています。)
そして、親権の有無・同居の有無に関わらず子の地位として第一順位の相続権を有します。両親の離婚後、親権者に引き取られた子供が、何十年も会っていなかった別居の親の訃報を知ったということも起こり得ます。
親権者ではない別居の親が再婚をしていた場合、尚且つその再婚相手との間に子供がいた場合は、再婚相手とその子供たちと遺産分割協議を行う必要があります。どちらの立場で考えても、ご心情的に難しい協議となることが予想されます。
ステップファミリー・再婚同士の連れ子がいた場合はどうなる?
再婚同士のパートナーシップ、ご家族も最近では珍しくありません。それに伴い、それぞれの連れ子がいたりなど家族の関係性も複雑になりがちです。再婚同士の間に子供が生まれたりすると、それぞれの子供たちにも特別な配慮をしながら関係構築をしていることと思います。
こと相続においては、そういった個々の家族が築いてきた信頼関係は関係なく、あくまでも血縁関係が優先されます。再婚に伴い、連れ子を再婚相手の戸籍に入れて養子縁組をするという選択肢もあります。そうすることで、血縁関係にある親子と同様に義務と権利が発生し、再婚相手の財産の相続権を得ることになります。
一方で、子供にとっては苗字が変わるという心理的な抵抗がある場合もあります。逆に再婚相手を扶養する義務が生じることもあり、慎重な選択が必要となります。
もう1つ考えなくてはならないのが、養子縁組をした子供は実子と同様の相続権を有することになります。離婚した元パートナーとの間に子供がいた場合、再婚相手の連れ子と養子縁組をすると相続人が増えることになります。つまり、元パートナーの子供(実子)の相続割合が減ることにつながるため、考慮が必要です。
連れ子と養子縁組をしない選択をしたとしても、財産を相続させたいと考えることもあるかと思います。その場合には、遺言書は一つの有効な手段となります。
生前の対策の必要性
離婚・再婚を伴う家族については、実子がいるか否か、養子縁組するか否か、そしてそれぞれのご家族の関係性によって有効な対策が異なりますので、どのようにご自身の財産を相続させたいか検討をする必要があります。
まず、第一歩となる対策は「遺言書」を残すことです。遺言書のメリットとしては、残された相続人同士が遺産分割協議を行わなくとも相続の手続きを進めることができる点にあります。ほとんどの場合、再婚した家族との関係性はほとんどなく、どのように相続をするか、お互いに相談すること自体も大きなご負担となります。
特に不動産がある場合なども注意が必要です。再婚相手との家族が住む家が相続財産となった場合、遺言書がなければ家族が暮らす家自体が相続財産の対象となり揉めてしまうことになります。残された家族が安心して暮らしていけるように遺言書を残すことで不要なトラブルを回避することが可能になります。
遺言書を残す場合には、他の相続人の遺留分の権利を侵害していないか十分に考慮することが重要です。また、万が一遺留分を請求されても対応できるような準備をしておくことも大切です。
子供がいないご夫婦
お子さんがいらっしゃらない若いご夫婦の方のご相談も近年増えてきております。
子供がいない場合、配偶者に相続が発生した場合、配偶者と両親が健在であれば両親(直系尊属)が相続権を有します。直系尊属がいない場合には、配偶者と兄弟姉妹が相続人になります。
法定相続分は、以下の通りとなります。
配偶者と親が相続人の場合 配偶者:3分の2 親:3分の1
配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合 配偶者:4分の3 兄弟姉妹:4分の1
配偶者に自分の両親や兄弟と遺産分割協議で揉めてほしくない、また遺産を巡る話し合いのストレスを与えたくないというお気持ちからご夫婦そろって「遺言書」を残される方も多くいらっしゃいます。不動産など分けることの難しいご資産のある方や会社を経営されているような方の場合は、特に慎重に検討されています。ご自宅を配偶者に相続をさせたいと考えている場合には、遺言書がないと代償金を配偶者の両親や兄弟姉妹に支払わなければならない、、、といったことにもなりかねません。
この場合にも、遺留分を十分に考慮する必要があります。尚、兄弟姉妹には遺留分を請求する権利はありません。
事実婚・同性婚の場合
残念ながら、事実婚・同性婚のパートナーシップに対して、現行法ですと相続の際には法律上の配偶者と同様の相続権を有していません。事実婚のパートナーは法定相続人ではないため、原則遺産を相続する権利がありません。
また、同性のパートナーについても一部の自治体などでパートナーシップ証明が認められていますが、戸籍上の婚姻関係ではないため現状は相続する権利がありません。
その為、パートナーに資産を残したいという場合には生前にしっかりと対策を検討する必要があります。代表的な対策として、遺言書を作成することは有効です。
また、現状ですと事実婚や同性婚のパートナーへの相続は、法定相続人以外への遺贈とみなされてしまうため、相続税が通常より加算されてしまったり、配偶者控除が使用できないといったデメリットもございます。亡くなった方に家族がいる場合には、遺留分なども考慮する必要があります。
まとめ
今回は、多様なパートナーシップに基づき相続について考えてみました。いずれの場合にも「遺言書」を作成するというのは、まずは最初に検討できる一つの方法です。その他、生命保険や生前贈与の制度を利用するなどいくつかの方法も含めて検証をすることが可能です。
これからますます多様化していくことが予想されます。個々の価値観や家族の形を現行法が補完できていない部分があり、当事者からするともやもやすることもあるかもしれません。
大切なことは、決まった正解はないということを理解し、それぞれの関係性における最適解を見つけていく必要があるということです。我々相続コンサルタントは、個々の価値観を尊重しながら、かつそれぞれのご関係性や課題をしっかりヒアリングさせて頂くことを大切にしています。